セレンディピティなるもの

伊達直人

2011年05月21日 22:10

セレンディピティ ~ serendipity ~ その言葉を初めて知ったのは、学生になる以前、イギリスの前科持ち作家ジェフリー・アーチャーの短編集を読んだ際にだった。

学者夫婦の英国的愛の年代記の中で、休日の二人の、長年の知的遊戯クロスワードパズルの答えとして、この単語が出てきたのだ。
知識階級でなければ知らない、めったに使われない言葉なんだな、と非常に印象に残った。

それから10年以上も経ち、某山岳雑誌で、それまで知らなかった“ソフトシェル”なるアウターの特集を眺めていた際に、この言葉を見つけたのだった。
世界初のソフトシェル概念を発表したのが、クラウドヴェイル社だったそうだ。その記念すべきファーストモデルが「セレンディピティ」だという。

久しぶりに見たその言葉に、懐かしさを覚えたし、そのネーミングのセンスに唸り、是非入手したいものだと強く感じた。
シェーラー社が生地を作っているらしいのだが、その提案を受けた際に、クラウドヴェイル社の企画担当は「めっけもんだな!」と興奮したのだろう。その思いが、このネーミングに表れている。

セレンディピティとは、『何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力・才能を指す言葉である。何かを発見したという「現象」ではなく、何かを発見をする「能力」を指す。平たく言えば、ふとした偶然をきっかけに閃きを得、幸運を掴み取る能力のことである。』なんだそうである。
研究の業界ではよくある現象なのだという。
あっ、と思いつくことはたくさんあるのだが、それらはいずれ追々…。

この生地は、耐風性が強く、伸縮性に富む。フィールドでは大変求められる性能である。耐風性はたいしたことなく、伸縮性のない生地はいくらでもあった当時、シェーラー製をアウターに生かせるという発見は、まさにセレンディピティだったことだろう。

ほどなく秀岳荘の恒例バーゲンに行って、ぶらぶらとジャケット類を眺めていると、なんとこれが半額以下で、隅にあったのである!
天候の変わりやすい北海道で、ソフトシェルほど最適のアウターはない。風は急に冷たくなるし、雨もぱらぱらと来る。
しかしソフトシェルなら、ちょっとやそっとでは気にしなくて済む。この気軽さがいい。

さらに、意外に便利なことに気づいたのだが、オープンカーで走る際には、耐風性が高いこと、柔らかいことが最高なのだ。
真夏にオープンは、じりじり熱い。初夏や秋が最高だ。しかし風は冷たくなる。そんなときでも、ソフトシェルなら、腕の冷えを防いでくれる。
皮のジャンパーというのもあるが、やはりごわごわとしていて、決してハンドリングやシフトなど、操作しやすい物ではない。ソフトシェルを知ってしまうと、もはやそんな不自由な上着には戻れなくなってしまった。

焚き火以外のシーンで、僕の求める手軽さとアクティヴィティに、ソフトシェルはもはや欠かせない。
- セレンディピティ - まさにいろんな意味でいろんなことに気づかせてくれることになったこのソフトシェルジャケットは、僕にとって記念すべきセレンディピティなのだった。


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